ガンマ線バースト観測による相対性理論の適応限界検証
2009年10月30日発表
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部(ISAS/JAXA)の大野雅功研究員をはじめとし、広島大学、東京工業大学らが参加する
フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡チームは、2009年5月10日に捉えた、73億光年の彼方で発生したガンマ線バーストと呼ばれる
天体現象を使うことで、アインシュタインの相対性理論の基礎である「光速度不変原理」を検証しました。
現代物理学の2大基礎理論は相対性理論と量子物理学ですが、時間・空間を記述する理論としてこの両者を統一する理論の
うちの一つである量子重力理論の中には、 電磁波(光やガンマ線もその一種)の速度が「光速度不変原理」を破り、
その周波数(エネルギー)に依存する事を予言する枠組みがあります。理論から予想される速度差はごくわずかですが、
73億光年の長旅を経ることによって、その速度差は測定可能な到着時間差となって現れることが期待されていました。
ガンマ線バーストは、数秒の短い間だけガンマ線で明るく輝く現象で、地球から数10憶光年以上彼方で起こることが多い宇宙最大
規模の爆発現象で、上の検証に適用できる宇宙現象です。正体は、まだ未知の部分が多いので研究が行われており、フェルミ衛星の
研究対象の1つにもなっています。
今回のガンマ線バーストでは、これまでの最高エネルギーである310億電子ボルト(これは可視光のおよそ100億倍もの
エネルギーに相当します)のガンマ線(光子)を検出しました。
ところが、低いエネルギーのガンマ線に比べて、理論で予測された到着時間差を観測することができませんでした。
これにより「光速度不変原理」は史上最高の精度で検証され、光速度不変の破れを予言する量子重力理論の枠組みに強い制限
をかけることに成功しました。今回の結果により、これまで検証が非常に難しかった量子重力理論に対して、初めて観測事実から
制限を与えられたことから、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡は天文学だけでなく素粒子物理学の新しい扉をも開いたと言えるでしょう。
この成果は、ネイチャー誌オンライン版に掲載されました。
この成果はISAS/JAXA(広報、X線グループ)および広島大学(広報)においてプレスリリースとして10月29日に発表するとともに、10月30日にISAS/JAXAにより、大野研究員を中心として記者会見が行われました。
また、NASAウェブサイト (Web Feature)に掲載されています。
プレスリリース PDF資料 ISAS/JAXA 広島大学
記者会見資料
NASA提供グラフィックス(Credit: NASA/DOE/Fermi-LAT Collaboration): 光速度差に関するもの(イメージ TIff、アニメーション MP4)
光のエネルギー(波長に逆比例)によって光速度が変わることの説明。
今回のガンマ線バーストGRB090510で観測されたガンマ線の到達時刻の分布