超巨大ブラックホールから噴き出すジェットの構造を解明
2010年2月19日発表
宇宙に数多くある銀河の中には、中心にある超巨大ブラックホールから供給されたエネルギーにより高速な「宇宙ジェット」を噴き出しているものが存在します。広島大・東工大・ JAXAらが参加するフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡チームは、スタンフォード大学の林田将明(はやしだまさあき)日本学術振興会海外特別研究員らが中心となり、広島大学宇宙科学センターの「かなた望遠鏡」を含めた世界20以上の衛星や望遠鏡を動員し、この巨大ブラックホールから噴き出すジェットを一年近くモニター観測し続けることで、ジェットの新しい姿を見出すことに成功しました。
「宇宙ジェット」が明るく輝いている銀河は「ブレーザー」と呼ばれる天体で、最もエネルギーの高い光「ガンマ線」で空を見ると、最も数多く見える天体です。そして、このジェット内では、地球上では生成が不可能なほどの超高エネルギーの粒子が生み出されており「宇宙の巨大な加速器」であると考えられています。ただし、全ての銀河がこのようなジェットを持っている訳ではなく(例えば、我々の銀河系は持っていません)、どのような条件でこのジェットが生成されるのか、またどのような構造を持つのかはまだあまり理解が進んでいませんでした。これまでの観測で、ジェットは電波からガンマ線に至るまでの非常に幅広いエネルギー帯域で変動しながら輝いていることが知られていました。そこで我々のチームは、乙女座にある「3C 279」という、53億光年という非常に遠い距離にありながらジェットが明るく輝いているブレーザーを対象に、電波、赤外線、可視光、X線、そしてガンマ線と幅広いエネルギー帯域にて、約一年間この天体を監視し続けました。
この観測の期間中にフレアというガンマ線で約10倍明るくなる現象が起こりました。このフレア現象は可視光でも同時に観測され、ここからガンマ線と可視光が同じ所から出ていること、しかもその場所はブラックホールごく近傍ではなく、これまで考えられてきたよりも遠くでガンマ線が発生していることがわかりました。特に、3色同時分光偏光撮像装置(名古屋大学開発)を備えた「かなた望遠鏡」の観測した可視光の偏光度から、その発光場所では磁場がきれいに整列していることがわかり、これは、ブラックホールから比較的遠方で高エネルギーガンマ線を発生させるためには磁場が重要な役割を果たしている、ということを支持する証拠を捉えたものだと考えられます。さらに、この偏光の方向がフレア期間中、滑らかにかつ連続的に約180度回転したことが観測され、このことは、この磁場を伴った宇宙ジェットは実はブラックホールからまっすぐに噴き出しているのではなく、途中緩やかに連続的に曲がっているのだと解釈できます。このようにジェットのガンマ線と可視光の放射の関係性を明確に捉えた観測は、本研究が初めてです。特に、「かなた望遠鏡」による可視偏光の観測は、この発見に非常に重要な役割を果たしました。
フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡は「かなた望遠鏡」と共に、今も多くの宇宙の遠くの銀河を監視し続けています。近い将来、ジェットの姿がより鮮明に描き出され、巨大ブラックホールをエネルギー源としたジェット生成のメカニズムが解明されることが期待されています。
この成果は2010年2月18日発行のNature誌に掲載されました。
Nature論文
また、広島大学およびスタンフォード大学SLAC国立加速器研究所においてプレスリリースを行いました。
広島大学プレスリリース文
シミュレーションによる巨大ブラックホールから噴き出すジェットの模式図(スタンフォード大学J.McKinnery氏提供)。中心のブラックホールが近くの物質(黄色)を吸い込み、解放されたエネルギーが磁力線(緑の線)を伴った「宇宙ジェット」(青と赤)として噴き出している様子を表している。
この観測から得られた、それぞれのエネルギー帯域における「3C 279」の約一年間の光度変動の様子。一番上(a)が「フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡」が観測したガンマ線の光度変動の様子。(d)が可視光と紫外線のいくつかの帯域の光度曲線、また可視光の偏光の強さ(e)とその偏光面の向き(角度)(f)の変化の様子を表している。縦の点線で囲まれた期間に、ガンマ線(a)と可視光(d)の光度が急に上がっているのに伴って、可視偏光の強さ(e)と向き(f)も一緒に変動しているのがわかる。