銀河系で最大スケールの星はガンマ線を放射しているのか?
─ 太陽の100倍もの質量をもつ「りゅうこつ座エータ星」と
その伴星の相互作用 ─
日本天文学会 2010年春季年会 記者会見
事前配布資料
研究グループ代表 高橋 弘充
(広島大学 宇宙科学センター 特任助教)
連絡先
メール:hirotaka “at” hep01.hepl.hiroshima-u.ac.jp
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日米欧で共同開発した「フェルミ衛星」により、銀河系で最大の質量をもつ恒星「りゅうこつ座エータ星」が伴星との相互作用により、ガンマ線を放射している可能性があることが明らかになりました。
これまでに太陽フレア以外の現象で、恒星からガンマ線が検出された例はありません。こうした状況の中、最新のガンマ線観測衛星により、昨年になって「りゅうこつ座エータ星」の方角(図1)に、ガンマ線を放射する天体が発見されました。「りゅうこつ座エータ星」(双極子状の星雲が有名:図2)は、我々から約7500光年の距離に位置し、銀河系で最も重い恒星です。その質量は太陽の100倍もあり、太陽の数十倍の質量をもつ伴星と連星系をなしています。
本研究において、我々は日米欧で共同開発したフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(「フェルミ衛星」、広島大学は半導体センサーの開発に貢献しました)の約1年にわたる最新データを解析し、このガンマ線天体が本当に「りゅうこつ座エータ星」から放射されている可能性があることを明らかにしました。この結果が得られたのは、「フェルミ衛星」が従来の観測装置よりも優れた角度分解能とガンマ線に対する高い検出能力をもち、ガンマ線天体の位置をこれまでよりも10倍も精度よく調べられたことが鍵でした(図3)。また観測されたガンマ線放射の最高エネルギーは、太陽フレアのガンマ線の1000倍以上である1千億 電子ボルトにも達していることが分かりました。仮説の1つとして、これほど高いエネルギーのガンマ線放射は、「りゅうこつ座エータ星」と伴星それぞれから放出された星風が激しく衝突することで生成されている可能性があります(図4)。
太陽フレアよりもはるかに高いエネルギーのガンマ線が恒星から放射されているということになれば、新種のガンマ線天体の発見となります。「りゅうこつ座エータ星」ほど重くはないものの、恒星どうしの連星系は銀河系内にまさに星の数ほど存在しています。こうした恒星が普遍的にガンマ線を放射しているかどうかを明らかにし、またその放射機構の物理的な描像を調べるために、これからも我々は「フェルミ衛星」の観測データをもとに精力的に研究を進めていく予定です。
図1 「りゅうこつ座エータ星」(距離7500光年)と周辺の星座 (ステラナビゲータ/株式会社アストロアーツ)
図2 「ハッブル宇宙望遠鏡」(可視光)で撮影された「りゅうこつ座エータ星」 (J. Morse, K. Davidson, NASA)
図3 「フェルミ衛星」(ガンマ線)で撮影された「りゅうこつ座エータ星」 (フェルミ・ガンマ線衛星チーム)
「フェルミ衛星」により従来よりも10倍も精度よく天体の位置を調べることができ、図中央のガンマ線天体が「りゅうこつ座エータ星」(緑十字の位置)である可能性が明らかになった。
図4 「りゅうこつ座エータ星」と伴星の想像図 (広島大学)
お互いの星からの星風(点線)が激しく衝突している場所(オレンジ色)から、ガンマ線が放射されている可能性がある(黒線:伴星は「りゅうこつ座エータ星」の周囲を5.5年の周期で公転している)。
・研究チーム
広島大学
宇宙科学センター: 高橋 弘充 (特任助教)
SLAC国立加速器研究所:
内山泰伸 (パノフスキーフェロー)
他フェルミ・ガンマ線衛星チーム
・関連リンク
日本フェルミ衛星グループホームページ:
http://www-heaf.hepl.hiroshima-u.ac.jp/glast/glast-j.html