日本天文学会記者発表:2010年3月23日14時00分〜(広島大学)
本件の取り扱いについては以下の解禁日でお願いいたします。
新聞: 日本時間 2010年3月24日(水)朝刊
テレビ・ラジオ・インターネット: 日本時間 2010年3月24日(水)午前4時
超新星残骸W28に付随する星間分子雲から放射される
ギガ電子ボルトの高エネルギーガンマ線の発見
― 宇宙線の起源解明に挑む ―
日米欧で共同開発したフェルミ衛星によって、星が死ぬ時の大爆発である超新星の残骸「W28」周辺をギガ電子ボルトの高エネルギーガンマ線で観測し、付随する密度の高いガス(分子雲)に対応した放射を発見しました。詳細に観測した結果、
(1)高エネルギーの原子核「宇宙線」が超新星残骸で加速されガスと反応している徴候を捉えました(5例目)。
(2)分子雲と超新星残骸の位置関係がガンマ線のエネルギー分布と相関している可能性を示唆する結果を得ました(新しいこと)
PDF版
発表資料
(4月7日) 科学新聞に掲載されました。
(3月29日) AstroArtsに掲載されました。
地球には宇宙空間から非常にエネルギーの高い原子核が絶え間なく降り注いでいることが知られており、宇宙線と呼ばれています。宇宙線がどこでどのように(1)加速され、どのように(2)拡散して地球に届いているのかという疑問は、まだ解明されておらず、現代の宇宙物理学の大きな謎の一つとなっています。
宇宙線は星が死ぬときの大爆発である超新星爆発で発生する衝撃波で加速されると考えられています。宇宙線のいる場所を探査するには、電磁波の観測が有効です。宇宙線自身は荷電粒子であり、星間磁場で方向を曲げられるので、地球に到来したときには方向の情報を失ってしまうためです。これまで様々な電磁波での観測が行われてきましたが、高エネルギー電子からの放射との識別が難しく決定的なことは言えませんでした。
鍵は密度の高いガス(分子雲)からの高エネルギーガンマ線の観測です。もし超新星残骸の近くに分子雲があれば、宇宙線はガス中の原子と衝突しギガ電子ボルト(10の9乗電子ボルト)程度の特徴的な高エネルギーガンマ線を効率的に発生します。このガンマ線を捉えれば超新星の残骸で宇宙線が加速、あるいは拡散している証拠が得られるはずです。超新星残骸W28にはいくつかの分子雲が付随しており(図1)、宇宙線の生成過程を調べるのに適した極めて稀な天体です。しかし、これまでの衛星観測では撮像の分解能が悪かったため、分子雲に対応しているかどうかよく分かりませんでした。
このような中、広島大学、米国SLAC国立加速器研究所、名古屋大学を中心とする研究グループは、2008年に打ち上げられた最新の衛星フェルミによって、W28と呼ばれる超新星残骸に衝突する分子雲からのガンマ線を詳細に観測しました。その結果、ガンマ線のイメージは分子雲の密度の高い部分とよく対応していることを発見しました(図2)。さらに詳細に調べた結果、(1)北の分子雲Nでは超新星残骸で加速された高エネルギーの宇宙線が反応している可能性が非常に高いことが分かりました(5例目)。また、(2)図2のS周辺の雲では分子雲と超新星残骸の位置関係がガンマ線のエネルギー分布と相関している可能性を示唆する結果が得られました(新しいこと)。1つの解釈として分子雲までの宇宙線の拡散の仕方に違いがあるのかもしれません。これはW28に位置関係が異なる分子雲がいくつも付随していることによって得られた結果です。本研究によって、今後宇宙線の拡散過程を理解する上で有用となるデータが得られました。しかし、地球に届く大半の宇宙線を定量的に理解することはまだできていません。我々は、宇宙線がどこでどのように加速されているのかという大問題を解明するために、これからもフェルミ衛星の観測データを使って研究を進めていきたいと思っています。
研究代表者・連絡先
広島大学 片桐 秀明 助教
電話番号 :082-424-7379
FAX番号 :082-424-0717
電子メールのアドレス :katagiri(アットマーク)hep01.hepl.hiroshima-u.ac.jp
研究が掲載されているURL :
http://www-heaf.hepl.hiroshima-u.ac.jp/glast/100324press/100324pressW28.html
研究チーム
他フェルミ・ガンマ線衛星チーム
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