銀河よりも巨大な高エネルギー粒子雲からガンマ線を発見
2010年4月2日発表
広島大学大学院理学研究科・深沢泰司教授、宇宙科学研究所/JAXAのLukasz Stawarz研究員、
アメリカNaval Research LaboratoryのTeddy Cheung研究員、フランスToulouse
宇宙放射線研究所のJurgen Knodlseder研究スタッフを中心とする日米欧の研究チームが、
フェルミ宇宙望遠鏡を用いた観測により、近傍銀河に付随した「巨大な雲」から強いガンマ
線放射を発見しました。この観測結果は4月1日(木)付けの
米国サイエンス誌オンライン版
に掲載されました。 (フェルミ衛星は、広島大学が開発に大きく貢献し、平成20年6月にNASAに
より打ち上げられました)。
今回観測した構造は、私たちの銀河から約1200万光年の距離にあるケンタウルス座A(Centaurus A)という
活動銀河に付随するものです。地球から見た「雲」の長手方向のサイズは満月の約20倍にも及び、実際の大きさは
約200万光年で銀河本体の50倍以上にもなります。ケンタウルス座Aの中心には太陽の約1億倍の質量をもつ
巨大なブラックホールが潜んでいると考えられ、ここから放出された高速な粒子ビーム(ジェット)が、この巨大な雲
を形成したと考えられます。この雲は電波で明るく輝いているため電波ローブと呼ばれています。今回新たに
ガンマ線放射が確認されたことにより、この雲の中に数1000億電子ボルトのエネルギーをもつ高エネルギー電子の存在
がはっきりした。ガンマ線は、ビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の光子を高エネルギー電子が散乱
して生成されているものとわかりました。これくらいの高エネルギー電子は、100万年以下でエネルギー損失してしまうため、
ブラックホール近傍から100万光年も走ることが難しく、電波ローブの中で加速されて生成されていなければなりません。
これまで見つかっている高エネルギーガンマ線を出すような加速天体はパルサー、ガンマ線バースト、ジェットの根元、
超新星残骸など、数光年以下の大きさであり、今回の粒子雲(電波ローブ)は桁違いに大きいことがわかります。
よって、宇宙における「新たな加速器」の存在が明らかになりました。
宇宙空間には、宇宙線と呼ばれる高エネルギーの粒子が走り回っており、地球にも絶えず降り注いでいます。
こうした高エネルギー粒子を作り出す効率の良い加速器として、星の最期における超新星爆発やガンマ線バースト、
ジェットの噴出しなど激しい爆発現象が考えられてきました。一方で、今回発見した「巨大な雲」は宇宙空間を
ゆっくり膨張するものの、激しい爆発や衝突を伴わないもので、銀河の外の「何もない」空間で宇宙線が作られる
という、新しい可能性を強く示唆します。
米国サイエンス誌オンライン版
この成果は広島大学(広報)においてプレスリリースとして4月2日に発表
するとともに、4月1日に深沢(広大理)、片岡(早稲田理工)により記者会見が行われました。
また、NASAウェブサイト (Web Feature)に掲載されています。
プレスリリース PDF 広島大学
記者会見資料
右がフェルミ衛星がとらえたケンタウルス座Aからのガンマ線。中心付近は銀河本体から出ているガンマ線で、その上下方向に広がったガンマ線が見える(credit:Fermi-LAT team)。左の銀河本体と比べると大きいことがわかる(Credit:NASA/CXC/Cfa/Kraft et al.)。