ガンマ線で暗黒物質の正体に迫る

2012年04月06日発信

フェルミ衛星は矮小楕円体銀河と呼ばれる、我々の銀河系の周りを回る伴銀河からのガンマ線を過去最高の感度で探査しました。このような銀河はガンマ線を出すような天体をほとんど含まず、もしガンマ線が検出されれば、光では見ることのできない「暗黒物質」からの信号である可能性が高いとされています。10個の矮小楕円体銀河から有意なガンマ線信号は検出されませんでしたが、このことから逆に、暗黒物質となっているであろう素粒子の質量に制限をつけることができました。


太陽などの星は光で見ることができます。 しかし宇宙には、このような通常の物質とは異なり光で見ることができない「暗黒物質」が存在することが、様々な観測から分かっています。宇宙の質量の大部分はこの暗黒物質が担っており、その正体を探ることは現代物理学の大きな課題の一つになっています。暗黒物質の候補の一つは、WIMP(弱相互作用重粒子)と呼ばれる素粒子の一つで、素粒子論から予言されてはいますが、まだ見つかってはいません。WIMP同士が衝突すると対消滅してガンマ線を放出すると考えられています(下図左)。WIMPが重いほどガンマ線のエネルギーが高くなるので、ガンマ線観測からその質量を間接的に知ることができます。

フェルミ衛星は、矮小楕円体銀河と呼ばれる、我々の銀河系の周りを回る伴銀河からのガンマ線を探しました。矮小楕円体銀河は我々の銀河系の1/1000程度以下の星しか含まない、非常に小さな銀河です。このような銀河はパルサーなどの、ガンマ線を出すような天体をほとんど含まないため、仮にガンマ線が検出されれば、暗黒物質からの信号である可能性が高いとされています。フェルミ衛星は、炉座(ろ座)にある矮小楕円体銀河(下図右)を始めとする10個の銀河を同時に解析することにより、ガンマ線を過去最高の感度で探査しました。その結果、有意なガンマ線信号は検出されませんでしたが、このことから逆に、暗黒物質となっているであろうWIMPの質量に制限をつけることができました。対消滅の結果どのような粒子が作られるかという仮定に多少依存しますが、質量は最低でも陽子(水素の原子核)の20倍以上なくてはいけない(もしこれより軽ければ、ガンマ線が検出されるはずである)ことが分かりました。今後さらにデータをためることにより、より厳しい質量の制限をつけることができます。もしかすると、暗黒物質からのガンマ線を初めて「検出」できるかもしれません。

関連した記事が NASAウェブサイトに掲載されています。

下左図は暗黒物質の候補であるWIMPが対消滅を起こして粒子を作る様子を模式的に示した物です。図中のχがWIMPを示します。 WIMPが対消滅をすると、ある割合でガンマ線が作られます。(右上に"Gamma-rays"と書かれている)(E. A. Baltzほかの論文(Journal of Cosmology and Astroparticle Physics, 2008年07月号)より抜粋)
下右図は炉座(ろ座)にある矮小楕円体銀河の写真。銀河中の星の運動から、光では見えない大量の「暗黒物質」に包まれていることが知られています。(Credit: ESO/Digital Sky Survey 2)