太陽フレアに伴う1億電子ボルトもの高エネルギーガンマ線の長時間放射を検出
                         2012年6月13日発表

 広島大学宇宙科学センター、田中康之特任助教 (現在、日本学術振興会海外特別研究員としてNASAゴダードスペースフライトセンターに滞在中)、 SLAC国立加速器研究所 Nicola Omodei、スタンフォード大学Vahe Petrosianらを中心とするフェルミガンマ線宇宙望遠鏡チームは、 2011年以降の太陽活動の活発化に伴い、太陽フレアに伴う1億電子ボルトもの高エネルギーガンマ線を、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡を用いて検出しました。

 肉眼(可視光)で見ると静寂で穏やかに見える太陽ですが、電波やX線など異なる波長で見ると、「フレア」とよばれる爆発現象が頻発していることが知られています。 これまでの観測では、最大規模の太陽フレアに伴ってのみ、1億電子ボルト以上の高エネルギーのガンマ線が放射されることが知られていました。 今回、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡の観測により、

  1. 小規模のフレアにおいても、1億電子ボルトもの高エネルギーのガンマ線が放射されていること
  2. 電波やX線で見ると、フレアの継続時間は数分からせいぜい数十分程度ですが、フェルミ望遠鏡が検出したガンマ線放射は、数時間から半日も継続すること
  3. 2012年3月7日に発生した最大規模の太陽フレアに伴い、これまでになく強烈なガンマ線が放射され、1億電子ボルト以上の高エネルギーのガンマ線が20時間にもわたって放射されたこと
  4. このイベントについて、ガンマ線放射領域が、フレアが発生した活動領域とほぼ一致すること
を明らかにしました。

 本研究成果は、

  1. フレアに伴って生じた太陽近傍の加速器で、1億電子ボルトにも達する高エネルギー粒子が、予想以上に普遍的に生成されていること
  2. 太陽フレアでは、磁気リコネクションによって粒子が加速されていることは広く認識されていますが、それに加えて新たなメカニズムにより高エネルギー粒子が生成されていること
  3. その新たなメカニズムの候補は2つに絞られ、活動領域での乱流による加速(フェルミ2次加速)か、質量放出前面の衝撃波による加速(フェルミ1次加速)であること
を示唆します。 フェルミ衛星は打ち上げから4年が経過しましたが、問題なく順調に観測を続けています。今後の更なる観測で、加速のメカニズムも決定されると期待されます。

 太陽からフレアに伴って宇宙空間に放出される高エネルギーのガンマ線や粒子 (陽子や電子)は、 衛星放送をはじめとするインフラや地球環境、また人類にも甚大な影響を与え得ることが近年認識されてきました。そのため、本研究成果は、 単に太陽物理学や高エネルギー宇宙物理学における学術的重要性だけでなく、地上や宇宙空間における放射線環境を予測しようとする 「宇宙天気予報」の観点からも重要な示唆を与えるものです。

この成果は、アメリカ天文学会で発表され、NASAでも同時にプレスリリースが行われました。(NASA Web Feature)
また、6月13日に広島大学から、田中特任助教を中心として記者会見が行われました。(記者会見資料)
なお、本研究は、特に日本においては、広島大学、JAXA宇宙科学研究所など日本フェルミチームと共同で行われました。

NASA提供の動画(Credit: NASA/DOE/Fermi-LAT Collaboration):
Movie-1 SDO衛星(Solar Dynamics Observatory、紫外線)で見た2012年3月7日の太陽フレア
Movie-2 加速された陽子と太陽大気の相互作用で、π中間子を介してガンマ線が放射される様子

以下の図のCreditは、NASA/DOE/Fermi-LAT Collaboration


フェルミ衛星によって得られた2012年3月6日(上)、7日(下)の全天カウントマップ。7日に太陽フレアに伴う強烈なガンマ線放射が検出された。



2012年3月7日のイベントについて、フェルミ衛星が決定したガンマ線放射領域の位置(緑色の円)を、紫外線のイメージの上にプロットした。フレアは活動領域11429で 発生しており、ガンマ線はその活動領域近辺から放射されていることを見出した。