これまでで最も遠い80億年前の活動銀河から超高エネルギーガンマ線を検出
                         2013年10月15日発表

広島大学宇宙科学センターの田中康之特任助教、スタンフォード国立加速器研究所の井上芳幸日本学術振興会海外特別研究員らを中心とする研究グループは、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡を用いて、これまでで最も遠い天体から、超高エネルギーガンマ線を検出しました。この結果は、138億年間の宇宙の歴史の中で、いつ、どのように、星や銀河が誕生し、成長したのかを解明する手がかりを与えるものです。

この成果は、10月15日に広島大学から、田中特任助教と井上日本学術振興会海外特別研究員を中心として記者会見が行われました。(記者会見資料)


本研究の概要

  1. 広島大学が開発に大きく貢献したフェルミガンマ線宇宙望遠鏡は、2008年6月の打ち上げから現在まで、問題もなく順調にガンマ線領域で観測を継続しています。
  2. 100ギガ電子ボルト(1000億電子ボルト、100 GeV)以上の光は、超高エネルギーガンマ線と呼ばれます。
  3. 我々は、フェルミ宇宙望遠鏡のデータを用いて、現在から80億年前の宇宙に存在する活動銀河 PKS 0426-380 から2発の超高エネルギーガンマ線を検出しました。(図1参照)
  4. これまでに超高エネルギーガンマ線が検出されていた最遠の天体は、現在から50億年前にある活動銀河でしたので、今回の発見は、その記録を大幅に更新するものです。
  5. これまでよりはるかに遠くの超高エネルギーガンマ線天体の検出に成功したことにより、より遠くの宇宙における星や銀河の歴史を紐解く手がかりを与えるものです。
本研究成果は、Astrophysical Journal Letters オンライン版に10月21日に掲載されます。
また、プレプリントサーバーから自由にご覧頂けます。arXiv:1308.0595


詳しい内容

  1. 超高エネルギーガンマ線は、宇宙を飛び交っている背景放射(#1)の光子と衝突して消えてしまいます (対消滅#2)。そのため、はるか遠方からの超高エネルギーガンマ線は、衝突する確率が高くなるので、ほとんどが宇宙を伝搬している間に背景放射の光子と衝突して消えてしまい、地球まで届きません。(下の用語の説明や、図2~図4も合わせてご参照ください)

    (ここでいう「背景放射」とは、全宇宙を満たしている極めて微弱な紫外線〜赤外線のことで、宇宙の歴史を通して作られたすべての星からの光です。)

    図4に示したように、これはちょうど、霧の日に、10m離れた車 (天体) からフロントライトで前方を照らすと、光が人 (地球) まで到達するので人が立っている姿が確認できますが、30m離れた車 (遠方の天体) からだと人の姿は見えない、という状況とよく似ています。立っている人 (地球) から見ても状況は同じで、10m先の車のライトは確認できますが、30m先の車は見えません。

  2. この宇宙全体に広がる「霧」が背景放射であり、この「霧」のため、超高エネルギーガンマ線では宇宙の果てまで見通すことはできず、「観測できる限界」が存在してしまいます。この「観測できる限界」が遠いか近いか、どこにあるかを調べることで、「霧の濃さ」、すなわち背景放射の光の量を決めることが可能になります。

  3. 活動銀河 PKS 0426-380の位置は、理論的研究によって推定されていた「観測できる限界」とほぼ一致することを見出しました。

    上の例で言うと、「霧の濃さ」は理論的研究により見積もられていて、それによると 20m 離れた車 (そこそこ遠い天体) までは見通せるようだ、と推測されていました。そして、今回我々は、実際にそのような場所にある車を見つけた、ということです。

  4. 背景放射の直接計測は、太陽系内や天の川銀河内の光に邪魔されるため、極めて困難でした。我々は、超高エネルギーガンマ線を用いて、紫外線領域の背景放射の光の量が、銀河のたしあわせで説明できることを確認しました。

  5. これまで超高エネルギーガンマ線で探索できるのは、50億年前までの宇宙の年齢の半分にも満たない領域だけでした。我々は、さらに30億光年も遠くの天体の検出に成功したことにより、80億年前まで遡って宇宙における星や銀河の歴史を解明できるようになりました。

  6. 今後も、フェルミ衛星で観測を続け、さらに多くの超高エネルギーガンマ線を検出する予定です。また、現在、フェルミ衛星よりも超高エネルギーガンマ線に優れた感度をもつ次世代ガンマ線望遠鏡計画 チェレンコフ テレスコープ アレイ (Cherenkov Telescope Array, CTA) を日本や欧米の国際協力のもと推進しています。この天体を将来、CTA で観測することで、宇宙の星形成史のより詳細な理解を得られるとも期待されます。


用語の説明

#1 「背景放射」とは、全宇宙を満たしている極めて微弱な放射です。図2は、街あかりによって夜空が明るく光っている様子を示しています。例えば、白のボックスで示した領域を観測したとしましょう。星以外にも、街あかりという領域全体を覆うぼやっと広がった「前景」放射が見えています。 この場合と同様に、宇宙を精密に観測すると、何もない領域でも、ぼやっと光っており、それらはほとんどの場合、興味のある天体よりも向こう側にあるので、「背景」放射と呼ばれています。そして、それは宇宙の歴史を通して作られたすべての星からの光です。 しかし、可視赤外線領域の観測では、太陽系内の火星と木星の間にある多量の塵からの光が混入するため、宇宙背景放射の「正確な」観測は非常に難しいという問題があります。

#2 超高エネルギーガンマ線は、宇宙を飛び交っている背景放射の光子と衝突して消滅し、電子と陽電子が生成されます(図3参照)。これが「対消滅」とよばれる物理素過程です。光子のエネルギーが電子と陽電子のエネルギーよりも高いときに起こりえます。遠方からやってくるガンマ線量を精密に測定することにより、可視赤外線望遠鏡では難しい宇宙背景放射の光の量の推定が可能となります。




図1:フェルミガンマ線宇宙望遠鏡で検出した2発の超エネルギーガンマ線と活動銀河 PKS 0426-380の位置。背景は、カウントマップと呼ばれるもので、約4年半の観測期間に、5 GeV以上の高エネルギーガンマ線が、どの位置から何発検出したかを示している。(1ピクセルのサイズは 3分角x3分角)



図2:街あかりの広がった放射が白ボックスの観測領域にも影響を与える。



図3:宇宙から飛来する超高エネルギーガンマ線の一部が対消滅し、一部が地球に飛来する様子。http://www.cta-observatory.org/?q=node/85 より日本語を加えて転載。



図4:霧との対比。