ガンマ線で観測史上最大級まで明るくなったクエーサー

2015年7月11日発表

2015年6月、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡は超巨大ブラックホールを有するクエーサー3C 279から、 この天体におけるガンマ線で観測史上最も明るい爆発的増光を観測しました。 これにあわせ、フェルミ衛星による重点的なガンマ線観測が行われるとともに、 全世界規模での多波長観測が実施されました(NASA プレスリリース)。


観測の概要

銀河の中には、中心部に超巨大ブラックホール(太陽質量の100万倍以上)があるものが存在します。 なかでも常に遠方に位置するクエーサーと呼ばれる種族の銀河は、活発な光度変動等が知られており、 宇宙における粒子加速や物質循環などに大きな役割を果たすと考えられていますが、 その加速機構や構造には未だ多くの謎に包まれています。

2015年6月14日、クエーサー3C 279から非常に大きなガンマ線での増光がフェルミ衛星(注1)により検出されました。 3C 279はテラ電子ボルトにまで達する非常に莫大なエネルギーのガンマ線光子が過去に検出されているクエーサーで、 高エネルギー粒子加速機構解明における重要な天体と考えられています。 今回の増光では、1991年にコンプトン・ガンマ線観測衛星で見られたガンマ線増光のさらに10倍もの明るさに達し、 この天体における歴史的な大増光となりました(図1参照)。

歴史的なガンマ線増光を受け、フェルミ衛星による重点的な3C 279の観測が実施されました。 併せて世界中の人工衛星や地上望遠鏡による様々な波長の光での観測が呼びかけられ、 全世界規模での3C 279の観測が行われました。 広島大学かなた望遠鏡でも、フェルミ衛星打ち上げ時から継続的に可視光でのモニター観測がされており(図2参照)、 今後も継続してフェルミ衛星との共同観測を継続する予定です。

現在、観測されたデータを元に解析が進められており、 超巨大ブラックホールを有するクエーサー天体における粒子加速機構・構造解明への大きな足がかりとなることが期待されています。

(注1)フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡は、広島大学をはじめとする日本の大学・研究機関が 開発・運用に大きく貢献している全天ガンマ線観測人工衛星です。 2008年6月の打ち上げ以降、全天サーベイモードによる観測を順調に続けており、 高エネルギー宇宙物理の分野に重要な知見を与え続けています。



図1: フェルミ衛星によって得られたクエーサー3C 279の増光直前のガンマ線画像(2015年6月4-10日,左図)と 増光中のガンマ線画像(2015年6月11-17日、右図, NASAのウェブページより転載)。 右下に見える明るい天体はガンマ線で非常に明るい「ほ座パルサー」であるが、クエーサー3C 279の増光はこのパルサーより明るくなっている様子が 見て取れる。



図2: かなた望遠鏡によって得られたクエーサー3C 279の可視光画像(2015年5月24日撮影)。 クエーサーは非常に遠方に位置するため、銀河の形は見えず、"恒星状"に見える。 (広島大学宇宙科学センター/東広島天文台)