フェルミ衛星とスウィフト衛星が新たな高エネルギー天文学を切り拓く

ー未知の高エネルギーガンマ線の放射メカニズム解明に大きく前進ー

                         2019年11月21日発信

 フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡衛星(フェルミ衛星)(注1)およびニール・ゲーレルス・スウィフト衛星(スウィフト衛星)(注2)は,人類史上「最も高いエネルギー」のガンマ線を放出するガンマ線バースト(注3)を捉えることに成功しました。また,このガンマ線バーストの爆発現象は,同時に大気チェレンコフ望遠鏡MAGIC(注4)によっても同時観測されており,これら3つのコラボレーション観測の実現(図1)により,これまで謎に包まれていたガンマ線放射のメカニズムの起源に強く迫る成果を導き出すことができました。
 ガンマ線バーストは初めてその現象が発見されてから50年近く経過していますが,いまだにガンマ線バーストから放たれる高エネルギーガンマ線の放射起源は明らかにされていませんでした。その理由として,高エネルギーのガンマ線が放出される時間が数100秒から数1000秒程度と短いことに加え,その爆発がどこで起きるか分からないことから,観測結果が極めて乏しいということが挙げられます。
 今回観測したガンマ線バースト(GRB190114C)では,フェルミ衛星およびスウィフト衛星が同時にX線およびガンマ線の放射を捉えました。そして金沢大学の有元誠助教らが,従来から定説と考えられている「シンクロトロン放射(注5)」では説明できない未知の高エネルギー超過成分の兆候を,フェルミ衛星を使って発見しました(図2)。さらに,ガンマ線バーストの発生直後から,MAGICがこの未知の超高エネルギーガンマ線を捉えることに成功し,これらの観測データを全て紡ぎ上げることで,最も有力な候補として「逆コンプトン散乱(注6)」と呼ばれるプロセス(図3)が,未知の高エネルギー超過成分の起源を説明できることを実証しました。
 ガンマ線バーストから生じる高エネルギー現象は,未解明の点がまだ多く残されています。今回の観測がもたらした成果は,これまでのガンマ線バーストの放射メカニズムの理解を大きく前進させるものであり,同様の観測を今後さらに実現していくことにより,未解明のガンマ線バーストの物理的描像が明らかになることが期待されます。本研究成果は,2019年11月20日18時(英国時間)に英国科学誌『Nature』にタイトル「Observation of inverse Compton emission from a long γ-ray burst」として掲載されました。また,フェルミ衛星およびスウィフト衛星が検出したX線とガンマ線の振る舞いの詳細な内容については,米国天文学会の運営する科学誌「Astrophysical Journal」に受理され,2019年9月23日(協定世界時)にプレプリントがオンライン掲載されました。
 なお,東京大学宇宙線研究所のMAGICチームによる超高エネルギーガンマ線の検出に関する詳細な内容については,同誌にタイトル「Teraelectronvolt emission from the γ-ray burst GRB 190114C」として同時掲載されています(東京大学宇宙線研究所Webページ「地上のチェレンコフ望遠鏡がガンマ線バーストの信号を初観測~誕生直後のブラックホールから過去最高エネルギーのTeVガンマ線放射を確認~」)。
 フェルミ衛星LAT検出器は、日本が開発に大きく貢献したものであり、打ち上げ後も日本人メンバーがデータモニター、突発天体監視、データ解析などで貢献を続けています。

Nature論文「Observation of inverse Compton emission from a long γ-ray burst」
プレプリント論文(フェルミおよびスウィフト衛星の詳細な観測結果)

NASAプレスリリース
金沢大学(フェルミおよびスウィフト衛星)プレスリリース
東京大学(MAGIC実験グループ)プレスリリース


図1. フェルミ衛星(左),スウィフト衛星(右), MAGIC(下)が,GRB190114CからのX線およびガンマ線の放射を同時に検出するイメージ図((C) NASA)



図2.  GRB 190114C から検出されたガンマ線エネルギーの時間分布。黒点が実際に検出された値であり,点線が従来のシンクロトロン放射モデルから予想される最大エネルギーを示す。よって,この点線より上に来る黒点は,シンクロトロン放射では説明できず別の物理メカニズムが必要とされる(プレプリント論文より抜粋)。



図3. シンクロトロン放射(左)と逆コンプトン散乱(右)のイメージ図。GRB 190114C で観測された超高エネルギーガンマ線は,シンクロトロン放射が逆コンプトン散乱によって,さらに高いエネルギーの光子へたたき上げられる物理プロセスによって生じたことが明らかになった。


(注1) フェルミ宇宙ガンマ線望遠鏡衛星(フェルミ衛星) 日米欧の国際チームで開発された高エネルギーガンマ線観測用天文衛星であり,2008年に打ち上げられた。全天をサーベイしながら,広い天域を常に監視している。日本のフェルミ衛星チームは,金沢大学に加え,広島大学,東京工業大学,東京大学,名古屋大学,早稲田大学,茨城大学,京都大学,理化学研究所,立教大学,青山学院大学,山形大学,美星天文台の研究者で構成されている。

(注2)ニール・ゲーレルス・スウィフト衛星(スウィフト衛星)
米英伊が中心となって開発したガンマ線バースト観測用天文衛星であり,2004年に打ち上げられた。フェルミ衛星が高エネルギーガンマ線帯域をカバーするのに対し,スウィフト衛星は低いエネルギー帯域(主にX線)をカバーする。突発天体の方向決定力に優れているのが特徴で,地上望遠鏡によるガンマ線バーストの迅速な追観測を行う上で,非常に重要な役割を担っている。

(注3)ガンマ線バースト
数秒から数十秒にわたって特にガンマ線で明るく輝く宇宙最大の爆発現象。全天で1日1回程度の頻度で起きているが,天空のどこで起きるかは予測不可能である。

(注4)大気チェレンコフ望遠鏡 MAGIC
MAGICはMajor Atmospheric Gamma-ray Imaging Cherenkov Telescopeの略。非常に高いエネルギーのガンマ線を捉えることができる地上望遠鏡。超高エネルギーガンマ線が地球の大気と相互作用して生じるチェレンコフ放射を観測する。観測サイトはスペイン・カナリア諸島のラ・パルマ島に位置しており,東京大学を含む国際チームで開発および観測が行われている。

(注5)シンクロトロン放射
磁場中を運動する高エネルギー電子が,磁場中で円運動またはらせん運動をするとき,軌道中心方向の加速度を受けて電磁波を放射する現象または放射する電磁波。

(注6)逆コンプトン散乱
天体の放射機構の一つであり,運動する電子が光子を散乱することで,光子にエネルギーを与え,元より高いエネルギーの光子が生成される過程。