GLAST衛星と日本の活動

ガンマ線天文衛星GLASTは、米国、日本、イタリア、フランス、スウェーデン、ドイツの6カ国が参加する国際共同開発プロジェクトとして開発されてきた。 ハッブル宇宙望遠鏡から始まった大型観測衛星シリーズのうち、最も高価で野心的な宇宙観測衛星の一つであり、NASADOE(米国エネルギー省)が初めて組んだ共同プロジェクトでもある。このガンマ線天文衛星の開発には、日本から広島大学を中心に、JAXA宇宙科学研究本部(ISAS)、東京工業大学らが貢献してきた。そして、広島大学の研究者が鍵となる半導体センサー(シリコンストップセンサー)を開発し供給している。 NASAは少なくとも5年間の観測運用を考えている。 衛星の重量は約4.3トンで、高度約500kmの軌道に打ち上げられる。日本の参加は、1998年に当時東京大学教授であった(現スタンフォード大学SLAC研究所教授)の釜江常好と広島大学助教授であった大杉節が、米国の研究者仲間からそれぞれ独立に参加を要請され、直ちに日本グループを立ち上げた。 現在、日本から広島大学、JAXA/ISAS、東京工業大学の研究者がフルメンバーとして、東京大学、名古屋大学も准メンバーとして参加している。日本グループの代表は広島大学宇宙科学センター長の大杉が務めている。

日本のフルメンバー:大杉節、深澤泰司、水野恒史、片桐秀明(広島大学)、
              高橋忠幸、尾崎正伸(JAXA/ISAS, 河合誠之(東京工業大学

GLAST衛星の特徴
高エネルギーガンマ線領域を始めて本格的に観測する目的の衛星で、高エネルギーGeVガンマ線(20MeV--300GeV)が電子とその反物質である陽電子の対に変わる素粒子反応(電子・陽電子対生成)を利用して、ガンマ線を検出する望遠鏡を搭載する。日本の誇る高性能半導体シリコンストリップセンサーを主要エレメントとして用い、高感度、広視野、高位置分解能で、多数の天体を連続的に途切れなく観測できる画期的な高性能、高信頼度のガンマ線望遠鏡となっている。

観測天体
観測目標天体は、高エネルギーガンマ線を出すような高エネルギー現象を伴う天体で、ブラックホールや中性子星、活動銀河核(AGN)、超新星残骸やガンマ線バーストと呼ばれる宇宙で最もエネルギーの高いと思われる謎の爆発現象などである。これらの現象では、人類の作り出せないような超高エネルギーの粒子を加速したり、途方もない規模の宇宙ジェットを作り出していると考えられている。 さらには、暗黒物質候補の粒子からの対消滅に伴うガンマ線や量子重力理論の予想現象の探査など野心的な研究も期待されている。

日本の重要な貢献
GLAST
衛星に搭載された「ガンマ線大面積望遠鏡(LAT)」の主構成エレメントである大面積半導体シリコンストリップセンサーを広島大学の大杉が設計し浜松ホトニクス(株)の協力を得て開発した。その開発したセンサーは性能及び品質が抜群であった事と、過去の開発実績が充分認知されていたため他の候補を押さえてLATに採用された。その後、LATに使われる約1万枚のセンサーの製造管理を主導した。こうした大きな貢献に対し、NASAから大杉及び浜松ホトニクス(株)に感謝状が贈られた。また、打ち上げ前の気球実験やビーム試験などに参加し、特に上空での宇宙線バックグラウンドの推定に大きく寄与している。さらには、打ち上げ後には、アメリカ、ヨーロッパとともに、3局24時間体制で衛星の監視を続ける予定である。GLASTで見える天体は、基本的に他の電磁波でも輝いているので、それらも含めた多波長同時観測が天体解明につながる。日本からも、広島大学可視光近赤外線望遠鏡かなた、東京工業大学可視光望遠鏡MITSuME ISAS/JAXAが打ち上げたX線天文衛星すざく、および「すざく」衛星搭載WAM検出器,、名古屋大学電波望遠鏡NANTEN2などが参加すべく、準備を進めてきた。今後は、来年打ち上げ予定の国際宇宙ステーション「きぼう」に搭載される全天X線監視装置MAXIとの連携観測も計画されている。

 

日本のこれまでの活動においては、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、文部科学省科学研究費補助金、ISAS/JAXA、理化学研究所、広島大学などから大きな資金サポートを受けており、ここに感謝します。


関連する学術論文

``Design and initial tests of the Tracker-converter of the Gamma-ray Large Area Space Telescope'', Atwood, W. B. et al. (日本メンバー10人含む), Astroparticle Phys. 28, 422-434 (2007)
`Design and properties of the GLAST flight silicon micro-strip sensors'', Ohsugi< T., Yoshida, S., Fukazawa, Y., ..., and GLAST-LAT collaboration, Nucl. Instr. and Meth. A 541, 29-39 (2005)
`Cosmic-Ray Background Flux Model Based on a Gamma-Ray Large Area Space Telescope Balloon Flight Engineering Model'', Mizuno, T., Kamae, T., Godfrey, G., Handa, T., Thompson, D. J., Lauben, D., Fukazawa, Y., Ozaki, M., Astrophys. Journal 614, 1113-1123 (2004)
``Radiation hardening of silicon strip detectors'': S. Yoshida, T. Ohsugi, \underline{\bf Y. Fukazawa}, K. Yamamura, K. Yamamoto, K. Sato, Nucl. Instr. and Meth. A 514, 38--43 (2003)
"Gamma-Ray Large-Area Space Telescope (GLAST) Balloon Flight Engineering Model: Overview": D.J. Thompson et al. (日本メンバー5名), IEEE Trans. Nucl. Sci., 49, 1898-1903 (2002)
``Performance of Large Area Silicon Strip Sensors for GLAST'':: S. Yoshida, H. Masuda, T. Ohsugi, Y. Fukazawa, K. Yamanaka, H.F., W. Sadrozinski, T. Handa, A. Kavelaars, A. Brez, R. Bellazzini, L. Latronico, K. Yamamura, K. Yamamoto, K. Sato, IEEE Trans. Nucl. Sci. 49, No.3, 1017--1021 (2002)
``Heavy ion irradiation on silicon strip sensors for GLAST'': S. Yoshida, K. Yamanaka, T. Ohsugi, H. Masuda, T. Mizuno, Y. Fukazawa, Y. Iwata, T. Murakami, H.F.W. Sadrozinski, K. Yamamura, K. Yamamoto, K. Sato, IEEE Trans. Nucl. Sci. 49, 1756--1762 (2002)

参考記事
・日経サイエンス2008年3月号 「極限宇宙をのぞくガンマ線宇宙望遠鏡GLAST」 
                      W.B.Atwood, P.F.Michelson, S.Ritz原著、大杉節 監修
・日本物理学会誌1999年8月号 「極限物理の宇宙をガンマ線で探る--GLAST衛星計画--」 釜江常好、大杉節
GLAST衛星パンフレット(日本語2000年版)


   
        GLASTに使われている使われている        シリコンストリップセンサーの開発、製造に対して、
        シリコンストップセンサー。広島大学と        NASAより大杉教授に授与された感謝状。
        浜松ホトニクスが開発。