天体は様々な波長(色)の光を放出しており, この光(電磁波)を詳しく観測することで, 天体の性質を知ることができます. 電磁波の持つ物理量のうち, 波の向きの偏りを調べる手法を「偏光観測」と言います. 偏光は身近な現象で, 例えばスキー場の雪面で反射した光は強く偏光しており, スキー用のゴーグルはこの偏光を利用してまぶしさを抑えます. この例で分かるように, 天体の形状が何らかの偏りを持つ場合に偏光が生じます. (スキーの雪面の場合, 平均的には向きが揃っています) 従って天体を偏光観測をすることで, 撮像がおよそ不可能な微細な構造を調べることが可能となります. (スキー場の例では, 雪面がはっきり見えないくらい遠くても, 光の向きから雪面の向きを知ることができます)
偏光観測の中でも特に, X線やガンマ線と言った高いエネルギーの光の観測は難しく, 1970年代に有名な「かに星雲」(メシエカタログの1番目の天体)からX線偏光を検出して以降, 長い間停滞状態にありました. しかし観測技術の発達によりここ数年で注目が高まりつつあります. このX線ガンマ線偏光観測で高エネルギー天体の知られざる姿を探ろうとする計画の一つが "PoGOLite"と呼ばれる気球実験で, 日本, スウェーデン, アメリカによる国際共同実験です. 2003年頃から計画してきた"PoGOLite"気球実験は, その最初の科学観測がいよいよ2013年の7月に,スウェーデンのキルナから予定されています.
(下左図)太陽光が雪面で反射して偏光が生じる例の概念図.
太陽からの光はあらゆる方向に振動しており, これを「無偏光」と呼びます.
一方雪面で反射した光は, 雪面に平行な向きに強く偏光しています.
このような状況下でスキー用ゴーグルをかけると, 反射光を効率良く落としまぶしさを抑えることができます.
(下右図)
PoGOLiteの検出器をゴンドラと呼ばれる構造体に収め,
クレーン車で運ぶテストをしているところ. 青く見えるのが太陽電池パネルです.
一緒に写っている人間と比べると, クレーン車やゴンドラがいかに大きいかが分かります.
本番の観測はもうすぐです.