多重コンプトンガンマ線カメラの開発

  50−1MeVの領域は、コンプトン散乱が支配的であるため、これまで宇宙観測の感度が良くならなかったが、半導体検出器の進展により、コンプトン散乱を逆に利用したイメージング検出器の実現が可能となりつつある。それが実現すれば、このエネルギー領域における感度が飛躍的に向上し、ブラックホール、ガンマ線バースト、超新星残骸などの高エネルギー天体の周辺の様子をより正確に理解できるようになる。我々のグループは、世界に誇るシリコンストリップとシンチレータの技術を合わせて多重コンプトンガンマ線カメラの開発に従事している。この研究は、SLAC,宇宙研との共同で行っており、2011年くらいに計画されている次期X線観測衛星NeXTの搭載を目標としている。

 多重コンプトンガンマ線カメラの原理を図1に示す。ガンマ線の散乱場所でのエネルギーデポジットと位置がわかると、入射ガンマ線の方向がコーン状に制限でき、複数のガンマ線についてコーンの交点を求めることにより、ガンマ線源の位置を決定できる。また、それぞれのガンマ線の入射エネルギーもわかる。散乱電子の方向もわかれば、入射ガンマ線の方向はコーン状の一部にさらに制限できるので、位置決定精度が良くなる。さらに、釜江らのアイデアを用いると、すべての散乱を追わなくても最初の3回の散乱についての情報を抑えれば入射ガンマ線の情報をかなり制限できる。散乱体としては、100keV以上で光電吸収よりもコンプトン散乱の断面積の大きいシリコンが散乱体としては良く、100umの位置分解能を持てば数100keVの電子については散乱方向がわかる。さらに、シリコンを重ねた場合に少ない層でガンマ線をある程度の確率で数回散乱させるには厚さは1mmくらいが望ましい。また、位置決定を2次元で行うには、SSDのストリップは1つのSSDの両面に直交して存在している方が望ましい。
  本研究室では、散乱体としてX線検出用低ノイズ大面積両面シリコンストリップ、周囲の壁としてシンチレータ+アバランシェフォトダイオードあるいはシンチレータ+位置検出型小型PMTの開発を行っている。


多重コンプトンカメラの原理。