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銀河団の高温プラズマの観測

東大牧島研、都立大、宇宙研とともに銀河団を満たす高温ガスの研究を行なってい る。

(1) 「あすか」による銀河団の高温ガスの構造の研究

「あすか」は、銀河団の高温ガスについて、その詳細な温度構造のみならず鉄 などの重元素分布の観測を可能にした。我々はX線放射が大きく広がって見ら れる近傍の銀河団を「あすか」により広範囲にマッピング観測を おこない、銀河団の高温ガスの温度構造や重元素分布を詳細に調べている。

AWM7銀河団については中心から 40分角 ($\sim$ 1.2 Mpc, ただし、 $H_0=50\;{\rm km/s/Mpc}$、以下同様) までを 6 視野で、ペルセウス銀河団については中心から1度 ($\sim$ 1.8 Mpc) までの 広い領域を13視野で観測した。AWM7 銀河団は、中心から 1 Mpc 付近まで 等温性がよい反面、中心から外側に向かって 500 kpc スケールで水素に対する 鉄の組成比が 太陽組成比の0.5倍から0.15倍 と 大きく減少していることがわかった 。またペルセウス座銀河団においても、 東の領域を除いて中心から周辺部にむかって、1.5 Mpc スケールで鉄の組成比が 太陽組成の 0.4 倍から 0.15 倍程度に減少していることが明らかになった (図2)。

「あすか」が発見したこのような大スケールでの重元素分布の勾配の存在は、 銀河団中心ほど鉄が銀河から放出されやすかった ことを示唆し、銀河からの鉄の放出過程を探る上で重要な情報となる。 また上の結果は、銀河団の高温ガス内の重元素の総量の見積もりに変更を せまるものである。 例えば AWM7 銀河団については、今回の観測に基づくと、鉄の総量は従来の 半分程度と見積もられる。以上の結果は、江澤博士論文としてまとめられた。

さらに今年度は明るい近傍銀河団のうち唯一「あすか」による広範囲の観測の 行なわれていなかった Centaurus 銀河団についても 7視野によるマッピング 観測を提案した。この提案は採択され、観測がまさに終了したところであり、 今後解析を進める予定である。




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Figure: The iron abundance radial profile in the Perseus Cluster of Galaxies.

(2) 「あすか」観測データの新しい解析手法の開発

「あすか」は 0.5-10 keV 領域ではじめて撮像とX線分光を可能にした画期的な X線観測衛星である。一方これまでも報告されている通り、「あすか」のX線 望遠鏡は非常に複雑な特性をもっており、特に銀河団のように広がったX線天体 の無矛盾な解析は非常に困難であった。そこで我々は TERRA という新しい 解析システムを独自に開発した。これはX線望遠鏡の特性データを大きなデータ ベースに蓄え、それをもとに解析に応じた応答関数を高速に生成し、 複数の観測データを同時に取り扱うことで、自己無矛盾な解析を可能にするもの である。今年度はこのシステムを実際の解析に応用しやすいように最適化する 作業を行ない、実際にペルセウス座銀河団の解析に適用して大スケールの 鉄の組成比の変化を発見した。

(3) 「あすか」の銀河団データの系統的解析

これまで「あすか」は200個近い銀河団を観測してきている。 「あすか」のデータは、他の衛星に比べて観測時間が長いため統計が良く、 観測バンドも広いので、 大量の銀河団についてさまざまな物理量を精度良く求められる。 特に、温度や重力質量に対する銀河団の個数分布は、銀河団の進化に制限を与える貴重な 情報である。 これまでは「あすか」の望遠鏡の応答関数が複雑であったため、大量の銀河団を 系統的に解析されないままでいる。 そこで、我々はこれまでの望遠鏡のキャリブレーションの経験を基に、 大量の銀河団を統一した手法で系統的に解析するためのシステムの開発を行なった。 現在は、解析手法の開発がほぼ終了しており、大量のデータに対するアクセスが 進んでいる。 今後は、得られた結果を用いて、銀河団の物理状態の統一的な描像の理解、 遠方銀河団の進化の兆候の探査、さらには小規模銀河団の硬X線放射の探査を 行なう予定である。

(4) 我々の銀河系を含む局所銀河群のプラズマの探査

我々の銀河系はアンドロメダ銀河M31とともに局所銀河群を形成しているが、 最近のX線の観測によって、他の銀河群の中には温度0.5-1keVの大量のプラズマを 持っているものがあることがわかってきた。 このため、我々の銀河系を含む局所銀河群もそうしたプラズマを持っている可能性 が出てくる。 さらに、こうしたプラズマが大量に存在すると宇宙マイクロ波背景輻射の空間揺らぎを 形成してしまって宇宙論に大きなインパクトを与えてしまうことが本物理学科の 須藤助教授らによって指摘されているため、プラズマの量を抑えておく必要がある。 そこで、我々は局所銀河群の中心方向と思われるM31の周辺部と90度ほど離れた 場所を「あすか」で観測して両視野を比べることで、局所銀河群に付随するプラズマに制限をつけた。 その結果、プラズマの量はかなり少なく、宇宙マイクロ波背景輻射に影響を与えるほど ではないことがわかった。



Yasushi Fukazawa
2000-08-02