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X線観測衛星による高エネルギー天体の研究

日本の「あすか」衛星を用いて高エネルギー天体を精力的に観測し、解析を行 なっている。本研究室はこれまで「あすか」の運用と軌道上での装置の較正に 参加し、また大規模データ解析システムを構築してきた。本年度も引き続いて 牧島研とともに観測を行ない、新たな結果を得た。 また、他のX線衛星へも積極的に観測提案を行なった。

(1) 「あすか」衛星による North Polar Spur の観測

North Polar Spur (NPS)は、視直径110$^{\circ}$の巨大なリング構造として観測 されるLoop Iスーパーバブルの一部で、l=30$^{\circ}$に沿って電波や軟X線での 放射が特に強い領域である。 またLoop Iバブルは、この方向で我々の太陽系を 含むいわゆるLocal Hot Bubble (LHB)と衝突して高密度のH$_{\rm I}$リング を形成していることが観測事実として知られている。 我々は「あすか」衛星を用いて、b=15$^{\circ}$の線に沿ってNPSを銀経方向に 横断するスキャン観測(l=20$^{\circ}$$\sim$32$^{\circ}$)を行なった。 その結果、 全ての観測領域から6$\sim$7$\times$106Kの希薄なプラズマからの 熱的な放射を検出し、また、銀経方向の構造としてl=29$^{\circ}$付近をピークとした電子密度の構造があることを見い出した。 これはROSAT衛星によってb=24, 34, 44$^{\circ}$の各銀緯線上で検出されていた ショックフロントに相当すると考えられ、Loop Iの中心から150pc程度の位置である こともコンシステントであることから、NPSが我々に最も近いSNRのショックフロント であり、それを接線方向に見ていることはほぼ確実となった。 一方、スペクトルフィッティングから得られた電子の温度・密度は、 ともにb=24$^{\circ}$におけるROSATの値よりおよそ2倍程度高く、また、 一温度モデルでフィットした場合には、銀経方向の温度構造はほとんど 見られなかった[22]。

(2) 「あすか」衛星による銀河団からの非熱的放射の観測

昨年、銀河群から非熱的放射と思われるX線を検出し、銀河団銀河群での粒子加速 の兆候を捉えたが、本年度も「あすか」で観測したすべての銀河群についてサーベイ し、いくつかの銀河群から非熱的放射らしきものを検出した。 また、少数の近傍銀河群を長時間観測することによって、放射の空間分布や詳細な スペクトルを調べた[9][26][27]。

(3) 「あすか」衛星による銀河団の系統的研究

「あすか」衛星は、これまで300個近い銀河団・楕円銀河を観測している。 「あすか」のデータは、これまでのX線データに比べてバックグラウンドが低いこと、 光子統計が良いこと、などが優れているため、非常に良い銀河団サンプルを与えてくれる。 我々は、これまで開発してきた大量データ処理システムを用いて、すべての銀河団の データを解析し、楕円銀河を含めた銀河団の統計的性質を調べることによって、 銀河団の進化の情報を得て、宇宙構造形成に迫る試みを行なっている。 特にこの研究は低温銀河団銀河群を豊富に含んでいることが特徴で、これまでの解析の 結果、低温銀河団銀河群のガスの温度、X線光度、質量の関係が 高温銀河団の関係とよくつながることが わかってきた。 また、これらのデータをもとに、温度、X線光度、ガスの空間分布をまとめた 「あすか」銀河団カタログを作成する計画を進めている[6][11][13][15][21]。

(4) 「あすか」およびBeppoSAX衛星による近傍銀河M51の研究

イタリアのBeppoSAX衛星に対する我々の観測提案により、近傍銀河M51がBeppoSAXで 観測された。2 M51は、中心に弱い活動銀河核を含んでいる可能性が指摘されていたが、 X線でなかなかはっきりした兆候が検出されていなかった。 BeppoSAXの観測では、硬X線検出器によって強く吸収された明るい硬X線成分が 検出されたため、濃い物質に隠された弱い活動銀河核がある可能性が高まった。 これは、近傍銀河の中には濃い物質に隠された巨大質量ブラックホールを含むものが 存在することを示している。

(5) 他衛星への観測提案

1999年にChandra(アメリカ)、Newton(ヨーロッパ)の 大型X線観測衛星が運用し始めた。 これらの衛星に対して、我々は積極的に観測提案を行なって一部が採択された。 観測が待たれるところである。 また、イタリアのX線衛星で現在稼働中のBeppoSAXへの観測提案も採択された。



Yasushi Fukazawa
2000-08-03