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硬X線検出器(HXD)の開発

我々は気球実験を通して開発を行なってきた経験を基に、2000年に打ち上げ予 定の日本の次期X線観測衛星ASTRO-Eに搭載される低バックグラウンド硬X線 γ線検出器(HXD)の開発を行なっている。 HXDは、10-500keVのエネルギー領域ででこれまでにない感度を目標としている。 開発は、本物理学科の牧島研、宇宙研、理研、大阪大、明星電気、富士通、 クリアパルスとと もに進めており、特に牧島研とは全面的な共同作業を行なっている。 HXDはセンサー部、アナログエレキ(AE)およびデジタルエレキ (DE)で構成される。 本年度は、FM品の製作、キャリブレーション、長期ランニング試験、HXDセンサー部の 振動試験を行ない、さらにレスポンス構築実験を行なった。 我々の研究室は、主にセンサーのシンチレータ部、AE/DE、構造設計、レスポンス構築 を担当している。 [10]

(1) FMシンチレータ部の製作・振動試験

シンチレータ部は、主検出部のGSOとActiveシールド用のBGOから構成され、 シンチレータの光量試験と目視検査、蛍光を効率良く集めるための 光反射材巻きつけ、100$\mu m$の精度での補強材接着、温度サイクル試験、など 注意深い作業を通して製作を行ない、本年度中にWell検出器19本と Antiシールドカウンター24本を完成させた(図0.1.1)。 Well検出器の井戸に、GSOよりも低いエネルギー領域をカバーする2mm厚PINフォト ダイオードを納め、これらをFMセンサーハウジングケースに組み込み、 FM-HXDセンサー部を1998年12月に組み立てた(図0.1.1)。 これを宇宙研にて衛星搭載要求レベルで振動試験を行ない、問題のないことを 確認し、長期ランニング試験に望んだ。 PINフォトダイオードがまだ完全ではなかったので、その後、センサー部を 一度ばらした。 PINフォトダイオードは、素子自体は宇宙研が担当しているが、PINを納めるケース に40K放射性同位体の混入が見られたため、本研究室では40K混入ができる だけ少ないケース探しを担当した結果、 $\sim\times10^{-5}$c/s/cm2/keVという目標 通りの低バックグラウンドを実現した。 そして1999年4月までに80個近いPINフォトダイオードが完成し、Well検出器に 挿入された。


  
Figure 0.1.1: HXD-Sの個々の検出器36本(上)とハウジングケースに納めた状態(下)
\begin{figure}
\begin{center}
\leavevmode\epsfxsize=6cm \epsfbox{kamae_fig11.ep...
...cm}
\leavevmode\epsfxsize=6cm \epsfbox{kamae_fig12.eps}\end{center}\end{figure}

(2) FM-AE部の製作および粒子ビーム試験

AEは、明星電気とともに開発を行なっている。 昨年度までの仕様設計に基づいて、実際にFM-AEの製作および試験が行なわれた。 本年度は特に、上空でのハイレート大信号に対して問題なく機能すること、 スケーラーやゲート生成などが高カウントレートでも正しく動作すること、 温度変化に対して強いこと、電気的干渉がないこと、などに注意して開発を行なった。 [1,2]

上空でのハイレート大信号を模擬するために、高エネルギー研究所および 放射線医学総合研究所重粒子治療センターにて陽子および重粒子を、上空で 予想されるレートでシンチレータに照射して、FMタイプの回路に信号を入力させて 問題なく動作することを確かめるとともに、さらなる性能向上のための結果も得た。

(3) ASTRO-E1次噛み合わせ試験

1998年7月から11月にかけて宇宙科学研究所において、ASTRO-E衛星の電気的インター フェース試験が行なわれ、HXDもこれに参加した。 ケーブル等が問題なく接続できること、コマンド・データが正しく通信されること、 機器どうしの電気的干渉がないこと、などについて試験した。 いくつか不具合が発生したが、噛み合わせ試験後に改修を行なって解決した。

(4) FM-Well検出器単体試験

HXDセンサー部は、36本のカウンターが独立に動作しながら、お互いに同時計測を 行なうので、非常に複雑な動作を行なう。 このため、全体の動作試験およびレスポンス構築を行なう前に、カウンター単体で動作 およびレスポンス試験を行なう必要がある。 我々は、FMセンサーとほぼ同等のものを1本用意し、それを用いて熱真空試験、 振動試験、バックグラウンド測定、およびレスポンス構築実験を行なって基礎データ を取得した後に、HXD-S全体試験に望んだ。

(5) キャリブレーション、長期ランニング試験

1998年12月から1999年1月にかけて、FMセンサー(PINは完全ではない)とFM-AEを 用いて、宇宙科学研究所において、上空での温度を模擬しながら、キャルブレーション および長期ライニング試験を行なった。 シンチレータで期待される $2\times10^{-5}$c/s/cm2/keVの低バックグラウンド レベルが達成できていること、イベント処理回路が正しく動作することを確認し、 レスポンス構築に必要なデータを取得したほか、今まで見得なかった不具合も 現れたので、試験後にそれを解決する改修を行なった。

(6) HXDレスポンス構築、バックグラウンド予想

HXDがカバーするエネルギー領域では、光電吸収だけでなくコンプトン散乱も大きく 寄与するために、単純な計算だけでは検出器の動作を完全に理解できない。 このため、EGS4を用いたモンテカルロシミュレーションを行なうことで、 レスポンス構築、および上空での放射化によるバックグラウンドの予想を行なう。 本年度は、今まで構築してきたシミュレーションシステムをより実機に合わせるため に、実際にFMセンサーを用いて取得したデータとシミュレーションを比較しな がら、シミュレーションシステムの開発を進めた。 [8,13]



Yasushi Fukazawa
2000-08-03