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X線観測衛星による高エネルギー天体の研究

日本の「あすか」衛星を用いて高エネルギー天体を精力的に観測し、解析を行 なっている。本研究室はこれまで「あすか」の運用と軌道上での装置の較正に 参加し、また大規模データ解析システムを構築してきた。本年度も引き続いて 牧島研とともに観測を行ない、新たな結果を得た。 また、他のX線衛星へも積極的に観測提案を行なった。

(1) 「あすか」衛星による星生成領域の研究

星生成領域は、分子雲の中に存在しているため、可視光や軟X線では吸収が強く、 「あすか」のような硬X線に感度を持つ検出器によって初めてその中心領域が観測可能 となる。 低質量星生成領域の観測は、これまで積極的に行なわれてきたが、大質量星はまだ不十分であった。 我々は、大質量星の形成が進んでいる巨大分子雲NGC6334, M17を「あすか」で観測し、 赤外線、電波などのデータなども統合的に用いて、大質量星が形成されている 分子雲のコア中心の様子を調べた。 その結果、どちらからも温度が3keV以上の光学的に薄いプラズマからのX線放射が電離 した鉄ラインとともに検出された。 このような高温のプラズマの存在は驚きであり、単独に存在する大質量星からは 見つかっていない。 我々はX線放射の起原として、大質量星からの2000km/sにもなる強い星風と分子雲に よる衝撃波が生じて加熱が行なわれている、という説を提案した。 このことは、分子雲の物理進化についての重要な情報となる。 本研究は、松崎博士論文としてまとめられた。 [6,14,16]

(2) 「あすか」衛星による銀河団からの非熱的放射の観測

銀河団は、多くの銀河を狭い領域に重力的に閉じ込めた系であり、その形成過程で 莫大な力学エネルギーを解放していると考えられている。 そのため、以前より高エネルギー粒子の存在が予想されていたが、これまで は観測感度が悪いために検出できなかった。 ところが、最近になった他衛星によって高エネルギー粒子の存在を示唆する放射が 検出され始めた。 我々も「あすか」により、銀河団の極めて小さい系である銀河群から エネルギー粒子の存在を示唆する硬X線を検出した。 [11,15]

(3) 「あすか」衛星による銀河団の系統的研究

「あすか」衛星は、これまで200個近い銀河団を観測している。 「あすか」のデータは、これまでのX線データに比べてバックグラウンドが低いこと、 光子統計が良いこと、などが優れているため、非常に良い銀河団サンプルを与えてくれる。 我々は、これまで開発してきた大量データ処理システムを用いて、すべての銀河団の データを解析し、銀河団の統計的性質を調べることによって、銀河団の進化の情報を 得て、宇宙構造形成に迫る試みを行なっている。 [17,18]

(4) 他衛星への観測提案

1999-2000年にかけてAstro-E(日本)、AXAF(アメリカ)、XMM(ヨーロッパ)の 3つの大型X線観測衛星が運用し始める。 これらの衛星に対しても、我々は積極的に観測提案を行ない、最先端の研究を 進める準備をしている。 AXAF/Astro-Eについては、観測提案の一部が採択されており、観測が待たれるところ である。 また、イタリアのX線衛星で現在稼働中のBeppoSAXへの観測提案も採択された。 それに搭載されている硬X線検出器のデータを用いることによって、 HXDでどのような成果が実際に期待されるかをスタディしている。



Yasushi Fukazawa
2000-08-03