過去のX線観測から,銀河団中心では高温ガスに含まれる鉄の組成 比が周辺部に比べて大きくなることが知られている. この鉄は,銀河団の中心に存在するcD銀河の中で爆発した超新星から 吐き出されたものと思われるが, 従来の観測では鉄の質量をきちんと測定できていないので,結論づけられない.
そこで、我々は、空間分解能に各段に優れ、X線分光も精度良く行える Chandra衛星のデータを用いて、銀河団中心の鉄の分布を系統的に調べた。 その結果,これまでにない精度で鉄の空間分布が測定され(図8左), 鉄の増加が始まる半径は,中心銀河の大きさと相関していることがわ かった(図8右). また鉄の質量も,中心銀河で十分供給できるくらいであることがわかった. 特に,MKW4銀河団の中心では,鉄の組成比が銀河団の中で最も大きいため,鉄の 空間分布が非常に精度良く測定され,銀河から鉄が吐き出されていることがより 確実となった. MKW4銀河団では鉄以外の重元素(O, Ne, Mg, Si)の組成比も求ま り,中心銀河で最近起きたType Ia型超新星爆発によって鉄の多くが放出された ことが示唆され,また銀河から放出された大部分の鉄は銀河周辺部にまだ存在し ていることもわかった. これは,鉄の分布と星の分布の比較からも指摘される.